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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)817号 判決

上告人 株式会社半田カバン店

被上告人 大阪国税局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告認の負担とする。

理由

上告代理人岩橋東太郎の上告理由一について。

論旨は、本件上告会社の別口預金は、貯蓄または利殖のための、貯蓄預金(日掛、月掛、普通定期預金等)と営業上の余裕資金を預け入れる営業預金(当座、通知、普通預金等)の両種を含み、商人の預金の利用としては、売上金はまず後者となつて現われ、次の段階で前者に振り替わる性質のものであつて、このことは、原判決が貯蓄預金は売上金の静態的滞留、営業預金はその動態的滞留と説示して明らかに認めているところであり、したがつてまたこの両種の預金の区別を無視して各預金の入金額を総計して売上金を推算するにおいては、振替の存在のため当然重複計算を生ずる可能性もまた原判決の認めているはずのところ、同判決は右預金の種別を看過した被上告人主張の売上金推計方法を承認したのであるから、その判決の理由に齟齬があるというにある。

原判決が商人の預金について貯蓄預金と営業預金の両種を認め、前者を売上金の静態的滞留、後者をその動態的滞留と説示していることは論旨のとおりであるが、原判決の説くところは、貯蓄預金たると営業預金たるとをとわず、商人がこれを行う場合にはその預金源は売上金ないしこれから生じた差益利得に依存する度合いがすぐれて大きいから、税務調査において売上金に関しては、預金調査は欠くべからざるものというにすぎず、売上金が貯蓄預金となれば、それは売上金の静態的滞留の姿であり、営業預金となれば、それは売上金の動態的滞留の姿であり、いずれにしても売上金の変形といえるものとしているのであつて、論旨のように、売上金はまず営業預金となり、ついで貯蓄預金に振り替り移行するものであることを認めた形跡は存しない。したがつて、原判決が商人の預金に前記両種の区別を認めたことをもつて、当然両種の預金の間に入金額の重複の可能性を承認したもののごとくいう論旨は、誤つた前提のもとに原判決を非難するに帰し、理由がないものといわなければならない。

同上告理由二について。

論旨は、本件上告会社の別口預金は貯蓄預金と営業預金の両種を含み、その間には振替による入金額の重複の可能性が存するものとし、これら預金を一括して上告会社の簿外売上金を推計するごとを承認した原判決は、二重計算の誤りをおかす違法のある旨を主張するが、さきに説示したように、論旨はその前提を誤つものであるのみならず、原判決の肯認した本件売上金の推計においては、各預金間の振替とみられる入金額は、すべて一応入金額の計算から除外されていることが明らかであり、論旨の非難はあたらないものといわなければならない。

論旨はまた、前記別口預金の各事業年度における出金額の総計は、その入金額の総計をはるかに超えるものがあり、そこになんら純資産額の増加のあらわれのないことを理由として、右別口預金の入金を簿外売上金によるものと推認するのを失当と論ずるが、右別口預金が上告会社の売上金から造成されたものと推認するに足りる事情の存することは、原判決認定の事実によつて十分首肯しうるところであり、かかる事情のもとにおいて、各事業年度の右別口預金からの出金の総額がその入金の総額を超えるかどうかは、右入金額から簿外売上金額を推計することになんら関係のない事柄である。すなわち、別口預金からの出金が、上告会社の代表者個人の家事費用のためなどの社外流出であるとしても、またそれが商品仕入れのためなどの社内資産への還元であるとしても、それらの出金事情や出金額のいかんは、その入金額が売上金額を示す事実になんら影響するところはないのである。論旨は採用すべきかぎりでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告理由書〈省略〉

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